引掛シーリングローゼット耐荷重の法的根拠とDIY注意点

引掛シーリングローゼットの耐荷重についてネットには5kgないし10kgといった案内がいくらでもありますが、誤解や混乱が散見されるので、ここで正確な法的根拠とともに整理しておきます。

引掛シーリングローゼットは、ガラス質の電球や重い器具を吊る目的からいって、耐荷重の情報を正確に把握するのは極めて重要なことです。ここで確認しておきましょう。

この記事を著作する専門家

一級建築士

この記事は、これまでに複数の家庭用電気DIYアイデアを提案し、また業務で建築用最新の各種電気設備を知る立場にある、一級建築士の筆者 デフラグライフよりお送りします。

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名前でなくツバで耐荷重を識別する

名前でなくツバで耐荷重を識別する
ツバありの例。耐荷重10kg

引掛シーリングローゼットの耐荷重は、外観にツバ(両側に飛び出した金属のハンガーまたはプラスチックのネジ突起)が有るか無いかで識別します。

きちんとした下地に施工されている条件下で、必ずそういう耐荷重となるよう法令等で定められているからです。

引掛シーリングローゼットの耐荷重識別法

ツバの無いものは耐荷重5kg、有るものは10kg

ですから、名称は全く関係ありません。名前にローゼットが入るから10kg・・・とは限らないので気をつけましょう。法的根拠について詳しくは以下灰色の記述を参照ください。読まなくても問題ありません。

ツバで耐荷重を識別できる法的根拠

内線規定 3205-2条 3 にその根拠がありますが、内線規程とは民間機関による自主規定であるため、ネットに全文公開はされていません。有料です。

なのでリンク先は抜粋であり、厳密には法律ではありません。しかし実態としては消防署が参照して使うこともあるくらい、建設現場や設備設計、製品開発にまで広く運用されている重要なものです。

規定によれば「引掛けシーリングに接続する器具の重さが5kgを超えるものにあっては、ローゼットの電気的接続部に荷重が加わらないようにすること」とあります。

また同3205-2図には「ローゼットの電気的接続部に荷重が加わらない施設例」として、いわゆるツバ付きのものが図示され、「引掛けシーリングに接続する器具の重さが10kgまで」と注記されています。

逆に言えば、ツバがあれば10kgまで、無ければ5kgまでというわけです。

ちなみにツバの形状はよくある両側に金属タイプのほか、側面にプラスチックのネジ山が突起しているタイプもあります。

耐荷重5kgの法的根拠

電気用品安全法施行令 別表第8 86の7の2 イ (チ) にその法的根拠があり、前記の内線規定と整合して法律化されています。

法文では「器具の重さが5kgを超えるものにあっては、ローゼットの電気的接続部に荷重が加わらないこと」とあります。

名前では識別できないことの法的根拠

日本工業規格JIS 8310:2000 にその根拠があります。JISとは法律ではありませんが、国家が定めた公的な規格です。

規定では「引掛シーリングローゼット」という名称のみが定義されており、シーリングとローゼットとを耐荷重によって名前を分けたりなどの再定義は一切ありません。

にも関わらずいろんな名前が耐荷重で使い分けられているかのように流布しています。そこに法的根拠はなく、単に各メーカーがそれぞれに考えて使い分けているだけです。

したがって逆に、名前から耐荷重を正確に推察することはできません。これがネット情報に大量の誤解と混乱を生み出している源泉です。

名前は関係ない

引掛埋め込みローゼット
出典:Panasonic

たとえば上記の名称は、「引掛埋込ローゼット」ですが、ツバがないのでその耐荷重は5kg商品仕様書に明記されています。ローゼットでも5kgです。

丸形フル引掛シーリング
出典:Panasonic

あるいは上記の名称は「丸形フル引掛シーリング」であり、どこにもローゼットの記載はありません。そのままでは耐荷重5kgですが、所定のツバを追加施工したら耐荷重10kgになると商品仕様書に明記されています。ローゼットじゃなくても10kgになります。

網羅的に確認すると以下のとおりです。誰でも名称に惑わされず外観だけで識別できます。もちろん、ツバ付きのものはツバにチェーンなど吊金具を付けて初めて10kgの耐荷重を得られます。

  • 耐荷重5kg:「角型引掛シーリング」「丸形引掛シーリング(ツバ無し)」「丸形フル引掛シーリング(ツバなし)」「引掛埋込ローゼット(ツバ無し)」
  • 耐荷重10kg:「丸形引掛シーリング(ツバ付き)」「丸形フル引掛シーリング(ツバ付き)」「引掛埋込ローゼット(ツバ付き)」「フル引掛ローゼット」

3kg、3.5kg、7kgの数字をめぐる混乱と根拠

情報源によっては、引掛シーリングローゼットの耐荷重は3kgとか、あるいは3.5、7kgといった異なる数字が錯綜しており、混乱を招いています。

ここでは法的根拠とともにこの混乱を整理しておきます。無視しても構いません。

3kgの数字はどこから来たのか

3kgというのは、引掛シーリングローゼットでなく、器具を吊り下げるコードの耐荷重規定から来ており、以下のとおりです。

照明器具のコード重量
一般のビニールコード3kg以下
補強コード5kg以下
フックにチェーン吊り10kg以下
出典:内線規定 3205-3-1電気用品安全法施行令 別表第8 86の7の2 イ (ト)

一般のビニールコードなら何でも3kg吊れるわけではない

上記の表だけを見ると普通の電気コンセントコードなら3kg吊れるなどと誤解されやすいので気をつけてください。

あくまで最初から吊ることを想定して作られた器具や部品において、補強されていないコードの最低基準が耐荷重3kgというだけです。

一般のビニールコードなら3kg吊れるわけではない

例えばクリップ式のスポットライトには電気コードがついてますが、あくまでクリップで挟むことを想定しており、電気コードで吊る想定にはなっていません。

これをコンセントに刺して電気コードだけでぶら下げても、3kgには耐えられません。吊り下げ用の器具でない限り、普通のコンセント電気コードだけで器具を吊ることは、器具がよほど軽くてコードが短いのでもない限りできません。

最初から吊ることを想定して作られた国内の照明器具あるいは部品は、近年では基本的にその吊り電力コードは5kgに耐える補強コードになっています。さもなくば、電気コードと吊り金具やチェーンが分離され、ツバに引っ掛ける構造になっています。

商品説明の確認が必要

ですから、手持ちや市販の吊り下げ器具は、商品説明の確認が必要ですがおおむねコード式はコード耐荷重5kg、吊金具式はコードには耐荷重はなく、吊金具のほうで耐荷重があると考えて差し支えありません。

要するに、3kgという数字は吊りコードに関する規定に由来しており、引掛シーリングローゼット自体の耐荷重には全く関係ありません

規定の根拠について詳しく知りたい方は、以下灰色の記述を参照ください。読まなくても構いません。

コードの耐荷重に関する法的根拠

内線規定 3205-3-1 にその根拠があるので抜粋をリンクします。

規定によれば「コードペンダントとして吊り下げることのできる重量は、コードにかかる重量の総和が3kg以下であること。ただし、十分な引張り強さを有する補強入りのコードなどを使用する場合はこの限りではない。」とあります。

逆に言えば、電気コードだけで支えられるのは補強入りでも5kgまでに制限され、補強無しでなおかつ吊ることを想定したコードは3kgには耐えるよう作る必要があるということです。

電気用品安全法施行令 別表第8 86の7の2 イ (ト) にもその法的根拠があり、前記の内線規定と整合して法律化されています。

法文では「器具の質量が3kgを超えるものにあっては、電源電線でつり下げる構造のものでないこと。ただし、器具の補強索等により機械的強度を強化した電源電線を使用するものにあっては、この限りでない」とあります。

3.5、7kgの数字はどこから来たのか

主に電気器具を施工する工事店が設けた自主基準であり、それぞれ元の引掛シーリングローゼットの耐荷重が5kg、10kgであることに由来します。約30%の余裕を見込んで、施工後にお客さんへ吊れる器具の重さ目安を説明するのに使用されているわけです。

例えば耐荷重5kgだからといっても、やたらコードが長いと地震のとき大きく揺れて根元にかかる負担は荷重以上の重いものになります。また5kgギリギリで器具を吊ってしまうと、途中で重い電球やフードに変えたり、コードの自重を足し忘れたりすると危険な状態になってしまいます。

3.5、7kgの数字はどこから来たのか

そういう不測の事態を避けるために、施工者が、お客さんの安全のために提供した自主基準としてよくある値です。もちろん、業者によって異なります。

よって法的根拠のない数字ですが、参考にすると良いでしょう。要するに耐荷重ギリギリで吊るのは避けましょうということです。

引掛シーリングローゼットのDIY注意点

引掛シーリングローゼットのDIY注意点

例えば既存の引掛シーリングを上記のようなパーツで分岐してから下記のようなパーツで延長し、隣にもう一つ離して引掛シーリングローゼットを増設したいとします。

パーツで延長

延長先のコードは背面でなく側面に穴あけして出すか、ビス貫通部の背面をかさ上げするように改造すれば、後は中央にある2つのビス穴から直接天井に付けられます。これなら天井内部の通線工事は不要なので、一見楽そうに見えます。

しかし、じゃあ延長した引掛シーリングローゼットパーツを天井にビス止めDIYしたからといって、その耐荷重が5kgないし10kgとは必ずしもなりません

引掛シーリングローゼットがその耐荷重を発揮できるのは、あくまで天井内部に下地補強がはじめからなされている場合か、木製の梁など強固な箇所に取り付けた場合のみです。

既存の建物についている引掛けシーリングローゼットはみな、天井内部で吊金具や下地などにより強固に補強が施工されています。

強度のない場所にDIYで引掛シーリングローゼットの表面パーツだけ取り付けても、耐荷重は得られません。ビスがもげて落ちます。

天井に重いものを吊りたい場合は、天井専用に設計されメーカーが耐荷重を示す製品、トリプルアンカー を用いてください。

耐荷重は直下の荷重のみ

耐荷重は直下の荷重のみ

例えば引掛シーリングの耐荷重5kgだったとして、自重1.5kgのダクトレールに3.5kgまでのプロジェクター製品を付けられるかというと、そうはなりません。

前提としてプロジェクターに必要なACアダプタや電気コード、ダクトレールフィクサー等の重さも差し引く必要があるのはもちろん、それらを付けて期待の耐荷重が得られるのは、引掛シーリングの真下にあるレールの部分だけです。

レールの片側とか端っこに吊ると、モーメント荷重といってテコの原理で根元の引掛シーリングにかかる荷重は何倍にもなります。既製ダクトレール製品の説明書にも、そういった注意書きは書いてあるはずです。例えば片側吊り荷重2.5kgまで、といった具合です。

慎重にDIYしよう

天吊りDIYは、失敗すると器具を破損したり怪我のような大事故に繋がる可能性があるため、特に慎重に臨む必要があります。まずは、根本的な耐荷重を正確な根拠と共に知ることが肝要です。

ネットで質問しても重いものを吊るなとか業者工事しろとか身も蓋もないことを言われてしょげていた人は、もう一度記事の情報を手にじぶんで検討してみると、無理なのかどうか判断がつけられると思います。

慎重にDIYしよう

正確な知識に基づいて判断がついたら、まず試すことが大切です。いくら耐荷重5kgあるからといって、果たして本当に吊れそうか、まずは余裕をもった軽いもの、サボテンのカゴなどから吊ってみて実感を掴みましょう。

5kgとは、2リットルの満載ペットボトル2.5本分の重さです。MAXギリギリで吊らず、慎重になる必要があるとお分かりでしょう。

最後のフロンティア

部屋の中の空中という空間は、せまいスペースを活かす最後のフロンティアです。あなたのやりたかった素晴らしいDIYアイデアを、正確な知識と試行によって着実に前進させてください。当サイトはあなたのDIYを応援しています。

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