魔法瓶水筒の公式な保温時間は、100度の熱湯で満タンにしてから室温25℃の環境下で6時間後に何℃に保たれているかが国家規格であるJISにより「保温効力」として明示されており、おおむね70℃前後です。
JIS以外にも魔法瓶水筒の保温力(保冷力)比較実験や保温トリビアはネットにたくさんありますが、条件や環境がバラバラなので参考にしづらい部分があります。記事では国家規格JISによって完全に条件を統一した、公式保温効力のみを比較して以下3種の最強水筒を公平に選出しています。
さらに、選出した最強の秘密を解析し、巷にあふれる保温の都市伝説と物理的原理を検証した上で、保温力を自力で延長強化するための合理的なDIY手法を手引きしています。
水筒に高度な性能を求める登山家や旅人、アウトドア好きのあなたのみならず、この記事には、忙しい出勤前の朝1分を争う人や、魔法瓶を哺乳ミルク作りに役立てようとする人にも、参考にできる知見が含まれています。ご覧ください。
公式保温力最強の魔法瓶水筒
一般入手しやすい製品の範囲内で、JIS規格に沿ってお湯投入6時間後の保温効力が試験され、定量的な結果が公式に担保されている品物の中では、コップ式/サーモス がトップで、保温効力の値は77℃となっています。
「保温効力」とは?
魔法びん水筒に熱湯(約100℃)を入れてから6時間後に、何℃を保てているかの公的な指標です。保温効力の高い水筒は、保冷力も高くなります。
試験基準は日本の国家規格 JISによって定められており、詳細は記事後半で解説しています。
公式リンク | JIS6時間 保温効力 | Amazon 参考価格 | 保温 コスパ | 食洗機 | 内容量 | 重量 | 外形 | |
コップ式 サーモス FFX-501 | 77℃ | 4,400円 | 250 | パッキン のみ可 | 500ml | 280g | 7×7× 23.5cm | |
コップ式 タイガー MSC-C050 | 74℃ | 2,434円 | 77 | 不可 | 500ml | 360g | 6.8×6.8× 23.8cm | |
コップ式 象印 SV-GR50 | 76℃ | 2,241円 | 38 | 不可 | 500ml | 270g | 7×7× 22.5cm | |
スクリュー式 サーモス JOR-500 | 69℃ | 2,182円 | 145 | 可! | 500ml | 205g | 6.5×6.5× 21.5cm | |
スクリュー式 タイガー MMZ-K050 | 74℃ | 2,241円 | 50 | 不可 | 500ml | 190g | 6.6×6.6× 21.6cm | |
スクリュー式 象印 SM-ZA48 | 71℃ | 2,287円 | 99 | 不可 パッキン 一体型 | 480ml | 230g | 6.5×6.5× 21.5cm | |
プッシュ式 サーモス JNL-506(旧番505) | 68℃ | 2,177円 | 286 | パッキン のみ可 | 500ml | 210g | 6.5×7.5× 22cm | |
プッシュ式 タイガー MMJ-A482 | 67℃ | 1,891円 | N/A | 不可 | 480ml | 190g | 6.6×7.2× 21.8cm | |
プッシュ式 象印 SM-SF48 | 71℃ | 2,434円 | 135 | 不可 | 480ml | 205g | 6.5×7× 22cm |
Amazon参考価格はセール時を除く当時の価格。商品画像は各リンク先公式サイトより引用
現在主流の魔法瓶水筒は、その注ぎ口形状ごとに大きく分けて「コップ式」「スクリュー式」「プッシュ式」の3つに大別されますが、傾向として保温能力が最も高いのは、メーカーを問わず「コップ式」のものになります。次いで「スクリュー式」が優れます。
魔法瓶は注ぎ口の部分が最も保温にとって弱点になるわけですが、コップ式は他の方式に比べ厚いコップで弱点を覆うことができるので、物理的自動的に、保温能力が高まる道理です。
このことは要するに、究極の保温能力を求めると、飲み口はコップ式になる、という制約の有ることを意味しています。この制約は記事後半のDIYによって解消できます。
保温コスパ最強の魔法瓶水筒
2021年12月現在、保温性能のコスパが最強と呼べる魔法瓶水筒は、コップ式/象印 です。保温トップのコップ式/サーモスに比べその保温効力が76℃と、1℃しか劣らないにも関わらず、価格は半額です。
次点は スクリュー式/タイガー で、保温効力は74℃に落ちますが、前2者より約90g軽いという、特筆すべき資質を備えます。
保温コスパは、今回最下位の プッシュ式/タイガー 67℃ を基準に、保温効力を1℃獲得するごとに差額何円のコストがかかっているかを割り戻した値で、低いほど安く、良いコストパフォーマンスであることを示しています。
子育て哺乳ミルク作りに最適な魔法瓶水筒
子育て哺乳ミルク作りに必須の魔法瓶性能は、6時間保温効力が70℃以上のできるだけ高い値であることです。70℃はWHOが定める公式のルールとなっています。
また、外出先でも使えることを考慮すると、あまり巨大な製品は考えものです。そして使い方を考えるならば、片手でさばける利便性も欠かせません。
実はこの簡単な条件3つを完全に満たす製品は、まだ市場に存在しません。
最高速のミルク作りにおいてはお湯の消費量が少ないので、魔法瓶の容量は350mlもあれば十分です。それ以上は重く取り回しにくいだけのオーバースペックです。
しかし後述しますが、容量がコンパクトになるほど、物理性質的にどうしても、保温効力は低下してしまいます。
保温効力を補うためには、冒頭説明したように、キャップをプッシュ式ではなくコップ式にする必要があります。つまり、3つの条件が互いに矛盾しており、どれか一つを妥協しなければなりません。
ミルク調製 好適水筒 | 公式リンク | 保温効力 | コンパクト | プッシュ式 |
①プッシュ式 象印 SM-SF48 | ○71℃ | ×480ml | ○プッシュ式 | |
②プッシュ式 タイガー MCX–A352 | ×63℃ | ○350ml | ○プッシュ式 | |
③コップ式 サーモス FFM-352(旧番351) | △69℃ | ○350ml | ×コップ式 |
そこで無駄のない妥協の仕方というものを提供します。まず、今家庭ですでに水筒をお持ちの方は、多くは①番に該当するような500ml前後かそれ以上のサイズの水筒なのではないかと思います。
念の為お手持ちの型番から調べていただきたいですが、このサイズ感だと基本的に、飲み口フタがどういう形式であっても保温効力はほぼ70℃に足りているはずです。まずはこれを使って前記リンク先の最高速ミルク作成を試してみることをお勧めします。保温の能力自体に不足はないので。
もしも今持っている水筒が②番の水筒のように350ml程度のサイズならば、コップ式でない限りは、その保温効力は70℃に遠くおよびません。どんなメーカーのどういう製品であっても、型番から保温効力を調べてみればそういう結果になります。
その場合は、記事後半の最強魔法瓶DIYの技術を使って+6℃前後、6時間保温効力を強化できますから、試してみましょう。それで手持ちの資産を活かしながら目的を達成できます。
保温効力のある水筒をまだ持っていないなら、これからミルク調製に最適な魔法びんを買うことを検討してください。それには、③番のタイプをお勧めします。筆者も現在はこのタイプに買い替え使用しており、至便です。
容量はコンパクトで高速ミルク作成の目的には必要十分、それでいてコップ式なのでほぼ70℃の保温効力があり、安心して使えます。
プッシュ式に比べひと手間増えてしまいますが、これでも慣れると片手で開けることができるようになります。
実はかなり重要な注ぎ口の構造
プッシュ式は本来、口をつけて飲むことを想定しているため、注ぎ口が丸く、かつ、一気に出ないよう注水口と通気口が一体型になっているタイプが多くあります。
このため、哺乳瓶やコップなどに注ごうとすると水流がゴボゴボと安定せず水はねが多くなる弱点があります。
スクリュー式はドバッと出て惨事につながるので、片手操作のミルク作りにはあまり適しません。湯を満タンにしないと保温効力は低下するので、なおさら操作を難しくします。
実はコップ式の場合、多くは注ぎ口の形状が尖っていて哺乳瓶へ注ぐ時水はねしにくく注ぎやすい形状になっています。
また、注水口と通気口が分離されていて、注ぐ時水流が安定する構造です。これは、コップに注ぐために設計されたことによる結果的な恩恵で、特にミルク作成時に非常に役立ちます。
注ぎ口形状 特性比較 | 口を付ける 飲みやすさ | 哺乳瓶や コップ等への 注ぎやすさ | 飲む時の 扱いやすさ |
プッシュ式 | ○一気に出ずホットでも飲みやすい | ×通気口一体型でゴボゴボ不安定な水流で水はねする | ○完全に片手で飲める |
スクリュー式 | ×ドバッと出る | △ドバッと出るが水流は自在 | ×フタ置場が必要 |
コップ式 | △飲み口が尖っている | ○通気口が分離していて水流が安定する | ×コップ置場が必要 |
JIS規格から導く理論上の最強魔法瓶
「魔法瓶」という呼称は、JIS規格によってその6時間後又は10時間後における保温効力が細かく規定されており、劣るものは呼称が使えません。
劣るものや表示のないものがその呼称を使っていないかどうかは、消費者庁が監督しています。
よく分からんメーカーの何やら凄そうな広告を伴う製品は、場合によっては巧みに「保温効力」表示を避けたり、表現を変え、JISに沿わず手前味噌な実験で能力を謳っているかもしれません。それでは何と比較してすごい性能なのか分からなくなってしまいます。
ですから、魔法瓶選びで失敗しないための最も楽で確実な方法は、商品説明にきちんと6時間(10時間)「保温効力」を明示しているものから選ぶことです。
冒頭の一覧表で示したサーモス、象印、タイガーの3社はいずれもJIS準拠の実験結果による保温効力を公式に表示しており、信用に値します。
ところで、JISが具体的にどんな基準なのか以下で見てみると、魔法瓶全般の性能の平均、常識がどんなものか、分かってきます。
JIS規格から分かる、まほうびんの性質
JIS保温効力の試験基準一覧
①室温が20℃の室内でまほうびんに沸騰したお湯を入れ、放置する。
②携帯用まほうびんは6時間、卓上用まほうびんは10時間放置した後、まほうびん内の湯の温度を測定する。
③測定温度が基準値(下記の表)以上であることを確認する。
容量 | 携帯用6時間 口径39mm未満 | 携帯用6時間 口径39〜54mm未満 | 携帯用6時間 口径54mm以上 | 携帯用6時間 直飲式 | 卓上10時間 一般式 | 卓上10時間 空気圧式 |
0.3L未満 | 62℃ | – | – | 47℃ | – | – |
0.3~0.4L未満 | 66℃ | 64℃ | – | 53℃ | – | – |
0.4~0.6L未満 | 70℃ | 68℃ | 66℃ | 58℃ | – | – |
0.6~0.9L未満 | 74℃ | 72℃ | 70℃ | 62℃ | 57℃ | – |
0.9~1.2L未満 | 77℃ | 75℃ | 73℃ | 66℃ | 61℃ | – |
1.2~1.5L未満 | 80℃ | 78℃ | 76℃ | – | 65℃ | 61℃ |
1.5~1.8L未満 | 82℃ | 80℃ | 78℃ | – | 68℃ | 64℃ |
1.8~2.3L未満 | – | 81℃ | 79℃ | – | 70℃ | 66℃ |
2.3L以上 | – | – | 80℃ | – | 71℃ | 67℃ |
(JIS S 2006:2016 表8)
JISが魔法瓶に求める保温性能の基準は、現実的な物理の法則に沿ったものになっています。あなたや筆者が自分で実験しなくても、規格を見れば逆に、魔法瓶という製品全般の持つ物理的な性質、物性が分かります。
容量の大きいものほど、保温効力は高くなる
400mlより600mlの方が、保温力は高くなります。基本的に、容量の大きな魔法瓶ほど、保温効力は高くなります。保冷力も、容量の大きいものほど高くなります。
魔法瓶の保温力的な弱点は飲み口であると冒頭に説明しましたが、魔法瓶水筒は容量が大きくなってもどんどん細長くなるだけで、飲み口の大きさはほとんど変わらないように設計されています。弱点を大きくしたくないからです。
弱点は小さいまま、びんの中のエネルギー総量ないし低温の液体が増える結果となるので、魔法瓶水筒は原則として、容量の大きなものほど最強に近づきます。
注ぎ口の口径が細いものほど、保温効力は高くなる
注ぎ口が細いほど、魔法瓶の保温力的弱点は小さくなるので、保温効力は高くなります。当然保冷力も高くなります。
しかし注ぎ口が細いほど、氷を入れづらいとか、掃除しにくいとか利便性が低下していきます。
保温力と保冷力は比例する
保温効力の高い製品は、規格を見ずとも物理的当然に、保冷力も高い傾向です。保温力最強を探すことは、保冷力最強を探すのとほとんど同じことです。
理論上の最強魔法瓶
ここまで見てきた現行製品の傾向と、JIS規格から読み取れる物理的な事実を総合すると、現実的な範囲での理論上の最強魔法瓶設計は、以下のルールに抽出できます。
保温時間・保冷時間を延長DIYする方法と検証
途中から段々何の話を読んでいるのか分からなくなったと思いますが、要は最強魔法瓶を探し、原理を知ったならば、最強はじぶんで簡単に作れるし、作るしかないという話です。
高額な登山用でコップ付きしかない水筒を買うのを避けて、今ある手持ちのちゃんとしたメーカーの水筒を流用したいとか、あまり大きすぎる水筒を持ち歩きたくないけど最強は欲しい、という時に自作が有用です。
赤ちゃんのミルク作りに必要な70℃以上のお湯を使うのに活用したいけど、6時間後70℃ギリギリだと不安だという場合にも適切な手法です。
ホットドリンクを自宅で作って会社に持ってくような人は、前夜にドリンクを作って自作最強魔法瓶に入れておけば、翌朝を大幅に時短できます。
作り方は単純で、魔法瓶の弱点である飲み口に、魔法瓶と同じ真空原理の断面構造を持つ、サーモスタンブラー をかぶせます。このタンブラーコップ製品は内径7.5cmあるので、記事の水筒どれにでも適合します。
珍奇・滑稽・狂気、いろんな形容が当てはまりそうですが、どう考えても簡便な範囲で理論的に魔法瓶の弱点を最小化し、効力を最強にするにはこの方法が最適なはずで、事実がどうなのかは実験によって誰でも確認できます。
また、運ぶ時ズレて隙間から熱や冷気が漏れないよう、あらかじめ毛足があってコンパクトな ハーフタオル を巻いておきます。飲む時は普通にコップとして使い、拭き取って戻せばコップ式とプッシュ式のいいとこ取りを兼ねられます。
肝心の保温能力についてですが、以下に検証実験結果を示しておきます。試験時間はJIS同様に各6時間と設定しました。
周囲の温度変化を避けるため試験環境は冷蔵庫内(約5℃)とし、試験中は開閉しないようにしています。試験には象印のプッシュタイプ水筒、SM-STA60-XA を使用しました。単に筆者が昔から使っている私物です。
試験開始温度はいずれも95℃です。
何も無しの実験結果:6時間後95→73℃
まず、この水筒の製品公式保温効力は6時間後73℃です。今回の実験は冷蔵庫内なのでJISの周囲温度20℃よりも厳しい環境下ですが、それでも73℃に保てるという結果になりました。少なくとも余裕持ってJIS基準以上の性能がある良品と言えるでしょう。
断熱コップ+ハーフタオル実験結果:6時間後95→79℃
約5℃の冷蔵庫内というJISよりも厳しい外気温環境下で、先ほど公式保温力最強として選出したトップのサーモス高級水筒が保持する保温効力77℃を上回る結果、79℃を示しました。
コップ無しの裸水筒に比べ、プラス6℃もの保温強化に成功しています。
原理的に当たり前ですが、極めて効果的に保温時間を伸ばすことができたという結果です。これは物理的な物性、唯一つの真理なので、誰でもあなたでも、やればほぼ同じ実験結果が得られます。
タオル巻き反証実験結果:6時間後95→74℃
逆に飲み口はほったらかしで胴体をタオルで巻くという反証実験も参考に示します。結果としては6時間後に74℃となり、巻いていない時とほとんど変わらない結果となりました。飲み口を包まないと、効果は気休めです。
原理的に魔法瓶の弱点は飲み口の部分だけであり、胴体の部分は真空層によってほとんど熱損失がありません。従って胴体の保護はあまり断熱効果がありません。タオル巻きで保温力アップを図る場合、飲み口を集中的に包むようにしましょう。
まほうびんの食洗機対応最新状況
食洗機対応モデルが増えてきた
この記事は初出2022年2月で当時はほとんどボトル本体の食洗機NGでしたが、1年半が経った2023年8月現在、各メーカーがボトル本体も含めて食洗機対応OKの製品を出すようになってきました。この段落を更新して最新情報をお届けします。
多くの魔法瓶水筒に食洗機はメーカー公式で不可、パッキンだけ食洗機可能と案内があります。
熱湯さえ入れる可能性がある金属製の水筒だというのに、食洗機の一体何が問題だというのでしょうか?
どのメーカーも共通した説明は、中せんや樹脂、部品が変形する恐れがあるという理由です。しかし詳細な理由は開示せず短い禁止の断言に終止しています。
注ぎ口の樹脂部に長時間高温の湯が当たり続けると、樹脂は金属よりも熱に弱いので、変形のおそれがあると思われます。また、真空層があだとなって急激な内外温度差が生じ、熱膨張によるひずみで変形を起こす確率が低いですが存在するのでしょう。そうした記述は以前タイガーのホームページにありましたが、今は削除されています。
これは、真空で断熱するメリットと完全に矛盾する欠陥であり、メーカーは理由として説明できる立場にありません。真空断熱して熱湯を入れたら内部側高温、外部側低温となり歪むのは当たり前です。どのメーカーも表現をぼかしたり「等」と付けることで樹脂だけでなく金属部も変形のおそれがあるかのような、逃げの説明構造になっています。
とはいえ食洗機が使えないのは不便極まりありません。筆者は個人的には、気にせず食洗機しています。皆さんも経験有ると思いますが、食洗機したら即壊れたということは無かったのではないでしょうか。非公式の自己責任にはなりますが、冒すリスクと得られる時間的メリットとはじゅうぶん割りに合ってくると思います。
ただしまほうびん水筒は細長い形状をしているので、食洗機では奥のほうが洗いきれないこともあります。不衛生なので、水を入れて振るなどといった手洗いも適時に併用する必要はあります。
また、いくつかのメーカーは障害を乗り越えてボトル本体も食洗機可能なモデルを開発しつつあります。やがて全部食洗機OKが主流になるでしょう。
見ての通りまほうびんの食洗機対応に対する進展は各社まちまちで、この分野が現在、過渡期の真っ只中であることを示しています。どう考えても一部の格安モデルまたは最高級モデルを除いた汎用品は食洗機対応が当たり前になっていくと思うので、各社のまほうびん開発に対する状況の違いを垣間見ることができます。筆者は象印を愛顧しているので、頑張ってもらいたいところです。
それにしても各社には公式サイトの自社全ボトルを性能別に分類した一覧表ないし検索をきちんと自社で作ってもらいたいものです。彼らはラインナップを乱発しすぎていてわけが分かりません。全然変わり映えしない製品でも色や細部を変えて型番を改めるためです。そうすることで少しずつ販売価格を上げる方式になっており、家電などでよくあるパターンです。読者のみなさんには、原則として旧型番を狙って買うことをお勧めします。
魔法瓶の仕組みに関するQ&A
最後に、魔法瓶水筒に関するその他の技術的知識を、サーモスや象印など主要メーカーからの情報や実験等を根拠にQ&Aでまとめておきます。知っておけば、扱い方に熟練することができるでしょう。
水筒の予熱は必要?効果ある?
魔法瓶水筒を予めお湯で温めておく予熱をすると保温効果が大幅に上がるといった都市伝説がありますが、物理的な原理に反しており、無理のあるものです。
上記の無編集実験動画をご覧いただければわかる通り、沸騰したお湯を投入した直後で予熱なしが97.2℃、予熱ありが97.5℃であり、予熱してもしなくても結果に大差ありません。
びんの内部表面温度は予熱なしが外気温同等の10℃程度、予熱ありが一時的に70℃超となりますが、最終結果の飲み物温度にもたらす効果は0.3℃と誤差の範囲でしかありません。
大抵の魔法瓶の原理は真空と鏡面輻射による遮熱が主であり、ビン自身が蓄えられる冷気や熱はほとんどありません。予熱でビン内部の薄い表面だけ温めてみたところで、ほとんど意味がありません。
真空でなく、やたら分厚い断熱材入りビンとかで、蓄熱で温度を保つような構造の製品ならば予熱も有効ですが、そもそもそれは魔法瓶とは呼べないし、能力も劣ります。
予熱はあまり期待せず、保温力アップには他の効率の良い断熱コップ等の手法を用いた方が良いでしょう。
まほうびん水筒の底にあるシールは剥がしていいのか
魔法瓶を製造するときは真空処理時の穴が底面にあり、これを保護するためのシールが貼られていますが、剥がしてはいけません。公式サイトにも説明があります。
ゴム足カバータイプを除き、多くの魔法瓶は真空加熱炉によって約950℃にまで加熱し真空処理時の空気抜き穴を塞ぐ封印処理がなされ、製造されます。保護シールはその封印処理後の仕上がりをカバーするためのものです。
まほうびんの真空層が壊れているか確かめる方法は
底シールをはがしちゃったとか、落っことしたとか、なんか保温力保冷力がすごい落ちた気がする。。という時は、まほうびんの真空断熱層が壊れてしまっていないか、メーカー公式手法で確かめてみましょう。
からっぽの水筒に沸騰したお湯を半量注ぎ5分経過後、水筒の下側面を手で触れてみて、温かくなっていたら、真空断熱層がなくなって壊れています。お湯の熱がダダ漏れしているということです。上の方は注ぎ口から熱が漏れ伝わってくる可能性があるので、触るのは下側面です。
まほうびんは金属の二重構造になっていて、中空層が真空ないしガス封入で断熱されている(真空は熱を伝えない)仕組みです。見た目は普通でも、打撃や歪みなどで内部の二重層が割れてしまっていると、そこから空気が侵入して真空層は壊れ、保温効力はなくなってしまいます。
そればかりか、注いだ飲み物が割れた隙間から二重層に入り込み、二重層の中まできれいに洗うことも乾かすことも出来ないため、たいへん不衛生な状態になります。
壊れていることが確かめられたまほうびんを修理する方法はありません。使い続けても保温効力のメリットがないばかりか、衛生上危険なため、諦めて破棄することをお勧めします。
魔法瓶にスポーツドリンクは公式OKなのか
スポーツドリンクは、どのメーカーも使用後すぐ洗えば可と公式サイトや説明書中に表示しています。
魔法びんを見直そう
記事では魔法瓶水筒の保温力に関する確実な調べ方と、現在の最強、そして、自力で保温保冷力を向上させるための効率的で無駄のないDIY方法を提示しました。
ところで、6時間後や10時間後にわずか何℃かの温度が高く、あるいはひんやり保てたからといって、そこまで必死こいて追求する意味はあるでしょうか?
その価値は人それぞれですが、ひとつには、お湯の温度を70℃以上にすることが衛生上強く求められている、赤ちゃんの哺乳ミルク作りにおいて、どんな魔法瓶を使えば何時間安全か、はっきり数字で分かり、確実性をDIYで補強できるようになります。
コーヒー紅茶にお湯をよく使うなら、保温強化DIYした魔法瓶のお湯から沸かすとかなり時短になり、毎回水から煮沸するより節約時短できるでしょう。あるいは出勤前夜に強化魔法瓶へ作っておくことで、朝の時短ができ、ギリギリまで寝ていられます。
登山では魔法瓶に冷たいドリンクを入れて行くのを止め、熱湯を満載して真空コップを被せれば、山頂で湯を沸かす時に究極の超高速時短ができます。
レジャーが好きなあなたも、最強化魔法瓶にお湯を入れてBBQなどに持っていけば、熱伝導最強クラスのアルミ雪平鍋でカレーやご飯、レトルトを湯煎するときに家族や仲間を待たせず、すぐ沸騰したお湯を用意できます。
持って行ったのがありふれた安物のバーナー、コンロでも、贅沢な装備に全身を固めたキャンパーがギョッと振り向くほどに、恐ろしく手際よく結果を出せるでしょう。
大抵の魔法瓶で、満載の熱湯が6時間後に約70℃保たれていることがJISで保障されていると知っていれば、そして物理法則に沿ったDIYでその効力を無駄なく延長強化できれば、いつか文字通り魔法のように熱のエネルギーを使いこなす、あなたの新しい姿と暮らしに出会えることでしょう。
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