米国フランクリン社製 タイトボンドⅢアルティメット(以下、タイトボンド3) / Titebond 3 Ultimate は屋外使用可能な耐水性を持った木工用接着剤です。
高い強度はもちろんのこと接着時に微調整で動かせること、乾燥後に削って加工できる性質、接着後に加熱してはがせる特性、公的機関による食品安全性の承認があり大変使いやすい品物です。
また、独創的なボトルキャップ形状をしており、つけたままハケとして使えるうえ外れないので無くす心配がありません。
しかし国内の情報は重要なスペックデータがいくつも省略して扱われており、いまひとつこのボンドの性能を伝え切れていないように思います。
この記事では タイトボンドの米国公式サイト から引用した正確で詳しいデータと、筆者が実際に使用した経験に基づく見解、使い方のコツをお伝えします。
ぜひこのボンドの詳しい性能、隠れた能力を理解し、DIYを始めとした各種アイデア実現に役立ててください。
なお食器への使用、パテの代用、にかわの代わり、レジンの代用、防水剤の代わりなど特殊な用途を検討しているかたは、食器に使える接着剤 タイトボンド応用4例 を参照ください。
タイトボンドのシリーズ比較
タイトボンドを買おうと思ってAmazonを覗くと、シリーズで10種類くらいあってどれを買えば良いのか分からない人もいると思います。
タイトボンドの詳しい性能や使い方を見ていく前に、まずはシリーズのラインナップをざっと比較しておきましょう。
なお比較の結論としてはタイトボンド3という緑のボトルが最も使用可能範囲が広くDIY向きで、コスパが良いです。
後の記事では主にタイトボンド3について説明しています。タイトボンド3についてのみ詳しく知りたい方は、ここの比較は読み飛ばしてください。
タイトボンドの米国公式サイト にいくとタイトボンドのラインナップは実に20以上あることが分かります。
国内Amazonではそのうち10種くらいを入手できますが、性能に対して価格が妥当なのはタイトボンド1(赤ボトル)、タイトボンド3(緑)、ジェニュインハイドグルー(茶)です。
特にコスパと総合力でお勧めするのはタイトボンド3(緑)ですが、性能を検討したい方のために比較表を作りました。
タイトボンド2(青)は実質3(緑)の下位互換となっており検討するメリットがないのですが、連番シリーズなので一応比較表に加えています。ご参考ください。
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名称 | タイトボンド1(赤) | タイトボンド2(青) | タイトボンド3(緑) | ジェニュインハイドグルー(茶) |
接着強度 | 3600psi | 3750psi | 4000psi | 3591psi |
使用推奨最低温度 | 10℃ | 12.7℃ | 8.3℃ | 10℃ |
屋外使用可否 耐水性有無 | 不可 耐水性無 | 可 耐水性有 | 可 耐水性有 | 不可 耐水性無 |
成分 | 脂肪族樹脂 | 架橋PVA | 有機高分子化合物 | 天然たんぱく質 (にかわ) |
硬化後の色味 | 黄色 | 橙色 | 薄茶色 | 透明 |
VOC含有量 | 10.7g/L | 3.0g/L | 9.0g/L | 0.0g/L |
オープンタイム | 4-6分 | 3-5分 | 8-10分 | 10分 |
クローズドタイム | 10-15分 | 10-15分 | 20-25分 | 20-30分 |
食品への間接接触 | ー | FDA承認 | FDA承認 | ー |
ざっくり特徴をいうと、タイトボンド1は木工ボンドと大差ない、タイトボンド2は全面的に3に劣る、タイトボンド3がベスト、ジェニュインハイドグルーは使いやすいニカワを探している人用です。
製品の消費期限は2年、硬化前の洗浄方法は水拭きで共通です。
タイトボンド3の成分は公式サイトでは Advanced Proprietary Polymerとなっていますが、国内代理店の取扱商品では日本語ラベル表示に有機高分子化合物とあります。
タイトボンド3の特徴 乾燥時間と剥がし方
ここからはシリーズの中で最も便利なタイトボンド3のスペックに関して、米国公式サイト情報 を抄訳して明記するとともに、筆者が実際に使用した実感を併記します。
国内サイトにはない細かいスペックデータや、使い方のコツなど基本的で重要な事柄がありますのでご覧ください。
硬化時間・乾燥時間
完全硬化時間はメーカー情報がありませんが、実感として完全に強度が出るには8時間くらい乾燥時間が必要です。
オープンタイムとは接着剤を塗ってから張り合わせるまでに開放しておくべき時間です。
ここがよく誤解が多く、塗ってから張り合わせるまでの制限時間だと勘違いしている人が多い部分でもあります。
オープンタイムは接着後の強度が良く出るように塗ってから接着までに空気にさらす最適開放時間で、メーカーが試験の結果として推奨するものです。
また、塗ってからすぐ張り合わせると、接着剤がヌルヌルしていて締め付けるとき接着物がずれやすくなってしまいます。
これを避けるためにも接着剤を空気にさらして粘りを出させるオープンタイムを取ることはメリットがあります。
なお最初の10分間では液体感が強く、拭くと伸びます。失敗しても水拭きで綺麗に拭き取ることができます。
圧着時間
クローズドタイムはアセンブリタイムともいい、接着してから圧締を継続すべき最低時間です。
ここも誤解が多いですが、25分で完全硬化するわけではありません。
きちんと最終的にくっ付けるために、最低はじめの25分はテープで仮押さえするとかクランプで締め付けておくべきという意味です。
実際25分経過で動かせなくはなりますが接着力はまだ低く、強く引っ張ると簡単にはがれてしまいます。
25分くらい経過時点では接着剤は半ゼリー状になっており、切ったストローの先端や折り曲げた小さな紙等ですきとると剥がれて除去できます。
言い換えると塗ってから25分間は微調整が利くということでもあります。
タイトボンドは空気に触れると硬化が始まります。確実にくっつけるためには、とにかく風通しの良いところに置いて一晩待つことです。
実際に接着物同士を密着すると、空気に触れるのは接着剤のはみ出した部分だけになります。
このはみ出した表面の部分から徐々に中まで硬化していくので、完全に硬化するには時間を要します。
なおさら最初のオープンタイムをとることが重要なコツだといえます。
剥がし方
ドライヤーで加熱して柔らかくし、引っ張って剥がします。
激落ち君などメラミンスポンジに水を含ませて持ち、少し対象を濡らしておいた方が加熱しすぎを防げます。
どの程度加熱が必要かは、公式情報の接着強度試験結果から知ることが出来ます。
この公式情報で分かることは、室温で固い木材同士を接着して硬化後、非常に強い力をかけると接着面でなく木材のほうが先に破断する場合があるという実験結果です。
つまり固まると木より硬くなる接着剤で、ヤスリで削ることも出来ます。
また、65℃に加熱して力をそれなりにかけると、木材は壊れず接着面が外れるという実験結果も数字で示されています。
65℃以上に加熱するとかなり接着力が落ちるということがこの情報から分かります。従ってドライヤーなどで加熱してやれば剥がしやすくなります。
また、65℃あれば十分であり、必要以上に過熱し続ける必要も無いわけです。あまりにも加熱しすぎると剥がす時に手で触れられないばかりか、引火の恐れがあることが分かります。
引火点93.3℃とは、93.3℃を超えると自然発火するという意味ではありません。それは発火点と言います。引火点93.3℃とは、93.3℃を超えた状態で何らかの種火に触れると、着火するという意味です。それほど高温にならなければ、即座には燃えない素材ということです。
加熱が充分であれば、手で簡単につるっと剥がれます。ボンドが残った場合は激落ち君で拭き取れます。
くっつくものとつかないもの
木系材料のほかに発泡スチロールが接着可能です。金属も接着できますがこの接着剤は水性かつ酸性であるため、種類によっては腐食します。金属に用いたい場合は、目立たない箇所で実験するか、防水加工を施した方が良いです。
筆者の実験したところ、陶器と石鹸も接着可能でした。
シリコン、ゴム、フッ素樹脂はまったく接着できませんでした。ですからタイトボンドをシリコン型にいれて型どりすることはできます。
プラスチックは強力に接着できるものと、かなり接着力が弱くなってしまうものとがあります。
まず、アクリルと塩ビはかなり強力に接着できます。ピカピカで硬く透明のプラスチックはアクリルであることが多いです。
一方ポリエチレンとポリプロピレンは殆ど接着できません。塩ビとポリエチレン/ポリプロピレンとを見た目で識別するのは難しいです。
実例で言うとサランラップとクレラップは塩ビなので接着可能です。ポリラップと100均ラップはポリエチレンなので全然くっつきません。
タイトボンドをわざとはみ出させて接着力を上げる方法
記事前半で説明したコンタクト接着法を、まず前提として実施します。その上で、
1.はみ出した周囲の部分にタイトボンドを塗り足し、接着面の周囲をカバーするように盛って塗る。※横ずれによる剥がれ(シア破壊)を防ぐ効果があり、接着力が上昇します。
2.カッターかヤスリなどで盛った部分を整形する。
3.仕上げに、盛った部分を塗装する。※タイトボンドは硬化後の切削、塗装が可能です。
タイトボンドをプラスチックにも使ってみよう
コンタクト接着法に、はみ出し接着法を合わせ技で実行すると、普通につけるより接着力が上がります。
プラスチックなどのいままであきらめていた対象にもくっつく可能性がありますので、試してみてください。実例は テーブル下リモコン収納 貼って剥がせる100均マグネットDIY をご覧ください。
もちろん、普段の木工接着でもオープンタイム有りのコンタクト接着法はおすすめです。やってみればこの方が簡単で強力だったと、きっと実感できるでしょう。
その他のデータ
この接着剤のユニークな特徴として、食品安全性があります。ここに注目して食器への使用を 食器に使える接着剤 タイトボンド応用4例 で検証しました。使用をご検討の方はリンク先をご覧ください。
ホームセンター等のタイトボンドを購入可能な場所
実店舗だと、ハンズとホームセンターの一部に取り扱いがありますが、無い場合も多いので事前に電話確認をした方が良いです。
大きいホームセンターにはタイトボンド1(赤)と、タイトボンド3(緑)、ジェニュインハイドグルー(茶)が置いてあることが多いですが、タイトボンド2(青)はまだ筆者は実店舗で見たことがありません。
最小サイズは115mlのもので、手のひら位の大きさです。国内代理店が取り扱っておりAmazonで入手できます。価格はAmazonでもハンズ、ホームセンターでもほとんど変わりません。
楽器の修理や木工目的ですでにタイトボンドを購入済の方も、今一度正しい使い方と特性を記事でおさらい戴けたのではないかと思います。
ちゃんとくっつかなくて困っていた経験のある人はオープンタイムやコンタクト接着など使い方の欄を再確認してみてください。
新しい使い道やDIYアイデアのヒントは 食器に使える接着剤 タイトボンド応用4例 を御照覧戴ければと思います。
DIYにベストなこの進化形ボンドの価値を、ぜひ存分にご活用ください。サイズによって価格は異なります。なお、にかわが必要な方はジェニュインハイドグルーが適切です。
読者コメント
タイトボンドⅢについて、ANSIおよびHPVAに関係する規格をご教授お願いします。
ANSIとは米国国家規格協会/American National Standards Instituteの略称で、日本のJISに相当する国家規格です。
HPVAとは米国広葉樹合板ベニヤ協会/Hardwood Plywood Veneer Associationの略称で、この2機関によってType1またはType2として木工用接着剤の耐水性が規格されています。
記事のタイトボンド3は最高等級であるType1に該当します。ちなみに以前解説したゴリラウッドグルーはType2です。
公式サイトのType 1 Water Resistance解説によるとその試験は、
「タイプ1テストは沸騰試験であり、150x150mmの組み立てブロック(接着接合したブロック)を25x75mmの試験片に切断し、4時間沸騰させ、約62度のオーブンで20時間焼きます。その後さらに4時間沸騰させ、すぐに流水を使って冷やし、試験片を濡れている間にせん断(シア破壊)破壊試験し、特定の強度と木材の故障要件に合格したもの」
「タイプ2テストは浸漬試験であり、150x150mmの組み立てブロックを50x125mmの試験片に切断し、4時間水に浸し、約48度のオーブンで19時間焼きます。これを合計3サイクル繰り返し、ボンドが剥がれず要件に合格したもの」
とあります。
この試験内容を以って一般にはタイプ1は屋外使用可、タイプ2は屋根下環境までの耐水性能として、製品を販売するメーカーから案内されていることがありますから目安にしてください。
例えば 安全・簡単格安DIY 現代的”金継ぎ”食器修理のやり方 に用いるには、焼成や熱いお茶コーヒーに耐えることを考えるとType1が推奨ですし、良くわからなければ常に上位互換であるType1製品を選択しておけば良いと思います。
また、今すでに持っている接着剤が仮にType2であったとしても屋外使用や熱湯をかけたりするので無いなら、こちらも厳しい試験に合格した強力な耐水性のある接着剤なので、別に買い替えたりするほどのことはなく、耐水性を期待して使っても十分に応えてくれるでしょう。
はじめまして。タイドボンドⅢで木材を接着後、切削、研磨しウレタン2液塗料を塗ったところ、グルーラインが少し膨れてきました。
接着後4日たっています。
これは正常な反応でしょうか?
ウレタン塗料は ストロンTXL2800にウレタンシンナーを3倍希釈で刷毛塗しました。
お時間のある時で結構ですので、お考えを聞かせて頂けましたら幸いです。
はじめまして。私はタイトボンドⅢのグルーラインにウレタン2液塗料を塗ったことがなく、結論を断定できないので、調査過程と推定を順番に記述します。
まず公式サイトでは塗装に関するアドバイスを見つけられませんでした。唯一染料または顔料を直接混ぜて染色する方法の案内のみ見受けられます。
次に民間の木工専門サイトでは24時間乾燥でプライマーなしで水性および油性塗料での塗装が問題なかったとの実験記録があります。
よって水性または油性の一般的な塗装は問題なく可能と思われます。
次に使用した塗料の特性ですが2液ウレタン塗料には一般に水性と溶剤タイプが存在し、シンナーを使用したということですから溶剤とタイトボンドの相性を調査する必要があります。
またこの時点で水性のウレタン塗料なら問題が生じない確率があると推定できます。
ここで再度公式サイトでシンナー使用について調査した結果、誤って塗布したタイトボンドを除去する時にアセトンを使用することが言及されている記述を見つけました。一般にアセトンはシンナーの主成分を構成しています。
つまり、溶剤を用いるとタイトボンドを溶かし、剥がすといえます。
よってシンナー溶剤を用いた結果グルーラインが溶けて膨張したと推定します。また、溶剤を用いるとタイトボンドが溶けるため、溶剤を含む塗料はタイトボンドの表面に適さず、同時に剥がす時に役立つと公式サイトで裏付けられました。
併せて、ウレタンかどうか、1液か2液かどうかは結果に関係なかった可能性があり、溶剤を回避すれば幅広く塗料を乗せられる確率も残されていると考えられます。
丁寧なご返信に感謝します。タイドボンドの耐溶剤性にもその程度限界が有ると考えて良さそうです。
今後の造作に大変役立ちました。重ねてありがとうございました。
初めまして、以下お伺いしたいのですが。
タイトボンド3を広い面積の合板とスタイロフォームの接着に使用したいと思っていますが、適切でしょうか?
タイトボンド3は空気が遮断された状態では硬化しないという話を耳にし、発砲スチロール(EPS)の接着には(空気を通すので)良好だが、スタイロフォーム(XPS)には適さない場合があるかもと思い質問させて頂きました。
以前、手のひらサイズの接着は試したことが有り、接着は問題ありませんでしたが、1m2を超える大きさでどうなるか?経験、知見が有ればお教え下さい。
初めまして。
私にはスタイロをタイトボンドでくっつけた経験はありません。なので性能情報から推定します。
タイトボンド3を広い面積の合板とスタイロフォームの接着に使用することは、多くの場合、適さないと推定されます。
タイトボンド3は空気などに触れて水分を失い、乾燥することで硬化します。
ですから断面から乾くほど小さな面積であるか、空気を通す材料か、水分を通す材料で自身の含水率10%以下と低いものなら、原則として接着に適します。
スタイロは空気も水分も通さないので、適しません。しかし合板はボンドから水分を吸い取り、他の面から気乾するので、適します。
合板同士を接着することに比べ、スタイロ面で下落する合板の表面積に相当する分、乾燥時間を多く取れば足りるのではないかと推算されます。
たとえば1平米の合板と、1平米のスタイロ平板を張り合わせるなら、乾燥時間を倍の48時間とるなどが考えられます。
しかし合板の片面にスタイロを貼り、他方の面が風通しの悪い隠蔽部だとか耐水合板やコンパネなど水分を通さない仕上げなら、いくら乾燥時間を取っても強度が発現しないと思います。
例えば木造建物の断熱材施工に用いる場合、後者の例に該当しますから明らかに適しません。
模型やオブジェ仮設台などの嵩上げに用いる場合は、まず合板とスタイロを接着後48時間以上できるだけ長く風通しの良い場所で乾燥し、そののち合板の表面に仕上げを貼り付ければ接着は成功すると思いますが、合板が片面湿潤、片面気乾状態に陥るうえに面積が大きいため、反りが無視できないレベルに達する確率が60%くらいあります。スタイロは反りに負けて歪みます。
合板を厚くすることで反りにある程度抵抗できますが、どちらかというとこの場合、水分の気乾に頼らない、なんらかの2液薬品反応硬化系か、ポリスチレン系OKの溶剤系か、水分反応硬化系接着剤を用いたほうが物性的には適するのではないかと思われます。溶剤系およびグルーガンはスタイロが溶けるので適しません。また自明ですが瞬間接着剤は大面積に適しません。
詳細な御回答有難うございます。
やはり大面積のスタイロ接着にはリスクがある事を理解致しました。
ダウケミカルのHPには速乾性の木工ボンドは使用推奨となっていたので、ならばタイトボンド3 も、と考えていました(耐水性を出来れば確保したかった)。
ご紹介頂いたPM525も使用経験が有るのですが、何せ塗布が大変で、、
アドバイスに従い、接着剤の選択をしたいと思います。
論理的なご説明、有難う御座いました。