家電を置くと時折発生するのが長いコンセントやLANケーブル等の取り回しです。こうした配線を格納して綺麗に見せるためのカバーはモールといいますが、多くはベタベタの粘着テープ式になっていて、賃貸で使用できません。
壁にマスキングテープを貼ってその上にモールを貼る方法だと、マスキングの粘着力が弱過ぎて剥がれ落ちるか、強過ぎて壁紙が剥がれてしまうかのジレンマに陥り、問題が永久に解決しません。ホチキスはコストも時間もあまりにかかりすぎ、そもそも下地がベニヤだった場合貫通しません。
この記事では市販の格安な穴あきモールとピンを使って、賃貸でも誰でも使用できる簡単な方法を説明します。テープやホチキスより楽で壁でも天井でも付けられ、簡単に外せてほぼ痕が残らないので、レイアウト変更にも自由自在に対応出来るようになります。
また、後半ではモールのコストを抑えるコツも解説しています。ちょっと賢いモールの付け方を試してみましょう。
モールを「壁」に固定する格安簡単な方法
穴あきモールをロングピンで留めるのが基本
穴あきモール とは、大多数のありふれた一般的な量産モールのことです。すでに手持ちのモールがあるなら、両端部と中央にはじめから穴が備わっているはずですから、確認してみてください。裏側の粘着テープで塞がっているため、多くの人は気づいていません。
穴あきモールの穴は直径4mmあります。ここへ直径1mm程度のピンを刺すとスペースに遊びができるので、例えば設置後に足や掃除機を多少ぶつけてもモールがカタッと動いて衝撃をキャンセルします。穴なし直刺しだと衝撃はすべて針部に集中してしまい、最初は良くてもすぐ抜けて悩まされます。
モールの上手な開け方
上記画像の①のように台座の両側面を押しながら、②のフタを引くと簡単に外れます。
この穴に針の長い特別な画鋲 ロングピン を根元まで貫通し、任意の壁にしっかり固定できます。それだけで終わりです。付属の粘着テープは使いません。針の短いふつうの画鋲でも代替できますが、抜けやすくなります。
また、100均製などで手持ちのモールに穴がなかったとしても、後述のピンバイスを使って安く簡単に解決できます。
画鋲等の刺さらない壁はどうする?
一般に、家庭の室内環境における任意の壁天井はコンクリート、ベニヤ、石膏ボードの3種に大別され、賃貸で使用可能なピン類の適用範囲は以下のとおりです。
ピン類 | コンクリ | ベニヤ | 石膏 |
画鋲 | ✕ | ◯ | △ |
ホチキス | ✕ | ✕ | ◯ |
ロングピン | ✕ | ◯ | ◯ |
トリプルピン | ✕ | ◯ | ◯ |
壁の識別についてですが、コンクリとそれ以外は叩けば分かります。あとは画鋲を刺してから抜いてみて、針先に白い粉が付いていれば石膏と断定できます。しかし、その必要はありません。ロングピンか、このあと用いるトリプルピンを使えば、ベニヤでも石膏でも貫通し固定でき、針穴は小さく済みます。
なおユニットバスなど鉄部には防水磁石、タイルなど陶部にはタイトボンド、コンクリには突っ張り棒、手すりや突っ張り棒など円柱部にはカニクランプ、机や家具棚など板部にはCクランプが、それぞれ復旧できて賃貸でも役立つ、ピンの代替技術です。
ロングピンは画像のように頭が平坦な低頭タイプで、ケーブル通過の邪魔になりません。また、針長さが家庭の壁厚さとほぼ同じになり、期待できる耐力を最適化できます。
ロングピンの針長さは12mmが最適
ロングピンは通常の7mm針画鋲に比べ1.7倍ほど針が長い、12mm針です。一般に、家庭の石膏壁は板厚が最低9.5mm、ベニヤなら12mmあります。また、通常は表面にクロス貼り仕上げとクロス糊合わせて1mmあるのが普通です。
穴あきモールを貫通した時、モールの厚さ1mm+モールテープ1mm+クロス類1mm+最低板厚9.5mm=12.5mmとなり、針がほぼ壁を貫通して最大限の耐力を発揮できるとともに、鋼製下地にぶつかったときでも針が止まらずに済む最適針長です。
もしも手持ちの画鋲がなくて今から買うのなら、先程紹介したロングピンが微弱ながら磁性も持っておりお勧めです。
磁性は今回の目的に不要ですが、画鋲で穴あけしたくないポスターとかを磁石のつかない壁に磁石で貼りたい時や、磁化した小物を壁に浮かせたい時などに広く役立つため、持っていて損はありません。
壁に刺したピンとモールに働く力の方向は一般にせん断力といって、天井にさす場合生じる引抜き力よりも約2.5倍大きな力に耐えられます。ロングピンなら約2本までの格納ケーブルとモール荷重にほとんどのケースで耐えられます。
ケーブルを3本以上格納したいなど重すぎる場合は、後述の天井固定と同じトリプルピンを壁に用いてください。
モールの穴あけDIY
すでに手持ちのモールがあるけど穴がないという人は、格安の ピンバイス を使って穴あけすれば同様に使えます。軽い力で1箇所あたり30秒くらいで誰にでも綺麗な穴を開けられます。
後述のトリプルピンを刺す場合、穴の最適値は3.2mmなのですが市販の廉価なドリル付きピンバイスはドリル直径3.0mmまでのものしかありません。
ただほとんど誤差の範囲なので、誰でも適当にグリグリやっていれば3.0mm穴でもトリプルピンの針座をグリグリやればプチっとはまります。このためだけに3.2φのドリルまで追加で買う必要はありません。
割り箸など適当な台木の上において、モールの両端から3cmくらいのところに一つずつと、モールの中央、1本につき計3箇所貫通すれば足ります。強度を増やしたい場合はもっと穴あけしピンを打てば良いでしょう。いくらでもピン穴増設できるのがこの方法の強みです。
モールを「天井」に固定して落下防止する賃貸OKの方法
天井取付の場合、普通のピンは引き抜きに弱く、コードの重さで落下するため適しません。1サイズアップの穴あきモールにトリプルピンを併用して、落下防止対策をする必要があります。
トリプルピンが落下防止対策に必要
トリプルピン は、石膏ボードもしくはベニヤ下地の壁天井に設置できる引き抜き防止のピンで、メーカー耐荷重は1個あたり約2.7kgです。なお、製品付属のフックは使いません。トリプルピンの単品売りはあっても割高で、けっきょく紹介したフックセットが1ピンあたり約65円と最安になります。
少なくともモール1本あたり2ピン打設することになるので、複数本のケーブルとモール自重、多少の衝撃にも難なく耐えられ、刺すだけで今まで難しかった天井配線が誰でも綺麗にできます。
このピンを穴あきモールの穴にはめて、付属の釘を3本打てば終わりです。ふつう、1mモール1本につき両端2セット刺せば足ります。ケーブルを4本以上格納するなど重い場合は、中央の穴にも1セット追加すれば足ります。
ピンはコインなどでも刺せますが、踏み台に乗って天井を見上げての作業は想像以上に大変なので、プッシャー の併用を強くお勧めします。
モールを「床」に固定することは避ける
床用モール
床用のモール製品も存在しますが、以下のデメリットがあるためお勧めしません。
- 粘着力が弱過ぎたりマスキングテープを併用すると踏んだ時剥がれ、強すぎると剥がす時床を傷つけるというジレンマに陥り、問題が永久に解決しない
- 段差ができて床掃除の時邪魔になり、粘着のフチにゴミが溜まって汚れる
- 大きくて加工しづらく、価格が高い
壁配線だと邪魔な段差やドアを越えられないから困っているという人は、そこだけ床でなく天井へ迂回すれば良いのです。
モール配線は多少遠回りでも基本的に床配線を避け、壁又は天井を活用しましょう。広くて綺麗で便利な部屋を作る最初のコツは、できるだけ床にモノを置かず宙に浮かせることです。
穴あきモールの選定
マサル工業社製が最善
一般家庭用に配線カバーを提供するメーカーは主要なものでエレコム、オーム、ELPA、アイリス、ニトリ、100均などが挙げられますが、今から買うならパーツバリエーション、統一規格の継続性、量産価格の安さからいってマサル工業の一択になると思います。
読者には馴染みのない名前だと思いますが、プロの建築業界では常識の電設資材メーカーです。しかもプロクオリティが一般人でも1本から安く入手できるという実態があり、もはや何も言うことがありません。
他のメーカーが駆逐されないのは、たぶん一般向けにあまり宣伝してないせいだと思います。ちなみにエレコムのモールの中身はマサルと同じです。
モールサイズ規格別 ケーブル格納本数目安
モールサイズ | コード格納本数 | トリプルピン使用時 | 最安購買法 |
0号 ※穴なし | 1本 | 0本 | テープ無し |
1号 | 2本 | 0本 | テープ無し |
2号 | 3本 | 2本 | テープ有り |
3号 | 5本 | 4本 | テープ無し |
4号 | 7本 | 6本 | テープ有り |
0号には穴がないので基本的に避けてください。ピンバイスがあっても、ピンヘッドがくぐりません。
天井設置の場合、モール内部に出るトリプルピンのヘッドが通線の邪魔になるため、通常より格納本数が減ります。このため、0号、1号はトリプルピンが使用できません。
マサルのモールは流通が多いので、通販でも1本から安く買えます。2号と4号は最安がテープ付きという逆転状態にあります。色柄もたくさんありますが、ミルキーホワイトが一番人気で手配しやすく大抵の壁紙に合い、安いです。
家庭のDIY目的の場合、ほとんどは2号サイズが必要十分に相当するはずなので迷ったらお勧めです。コストを優先したいなら1号サイズを基本にし、天井やケーブル集中部のみ2号サイズを用いると良いです。筆者はそうしています。
モール整線のコストを抑えるコツ
ルート短縮のアイデアが一番コストダウンになる
整線する距離が極力短くなるよう前もって工夫すれば、コストも美観も大幅に上昇します。それには固定観念に囚われずコンセントを探すことです。
洗濯機・冷蔵庫・エアコンの設置してある場所には、壁の高い位置にコンセントがあるはずです。ここを分岐すればかなり短縮になる場面があるでしょう。屋外でも給湯器用コンセントなどから探せます。
廊下や階段など不毛で複雑な長距離を通線しようとしている場合は、その前に電灯から電力を分配できないか検討してみましょう。
遠くのコンセントから電気を引っ張ってくるより、真上の電灯にソケットを刺すだけで従来の電灯そのままに空中コンセントを増設できます。そこからの通線は、この記事の天井モール技術を使えば良いでしょう。
段差や曲面への対応は後回しにしたほうがいい
最初はあれこれ悩むよりまず必要最小限の直線パーツのみで構成し、コーナーなど細かいところは上記画像のように放っておいて、最速最安でまず煩わしい床ケーブルのない快適生活空間をつくってしまうことをお勧めします。
段差や曲面に対応できる特殊なパーツは山程種類がありますが、どれも非常に割高で面倒な品物で、安易にこだわり出すとコストと時間の沼にはまります。重要なのは細部のこだわりでなくあなたの快適な生活です。
粘着テープを用いないこの記事の手法なら、こだわりの細部パーツはいくらでも後付けできます。マサルの統一規格と、ピン施工による復旧力の賜物です。
モールカットは意外と高難度
厚く硬いモールのカットにはモールカッターという専用工具が必要で、コストも時間もかかる割にレイアウト変更の柔軟性が低下するので、最初からのモールカットはお勧めしません。ノーマルハサミや一部の園芸鋏、ニッパー、プラスチックカッターを用いると非常に苦労した挙げ句断面がグチャグチャのゴミになります。
直線部も1mの定尺からはみ出したケーブルは、始終端を素直に余らせておけば良いです。例えば配線総延長2.5mなら、1mモール2本買って始終端は25cmずつケーブルが飛び出す余長のあったほうが、コンセントや器具に刺す時など融通が利いてよいです。
とにかく、お金や時間を使う前に簡単な直線パーツだけピンで刺して始めてみましょう。それで不満なければ、それで良いのです。
細部の処理
どうしても必要なら、段差やコーナーを解消する役物パーツを要所に使い分けると安全性が向上します。子どもや動物がコードをひっぱったりかじったりするのを防止したい、来客が不用意に引っ掛かるのを防止したいなどといった場面で、単なる美観以上の効果を発揮します。
出隅コーナー
柱の出隅コーナーなどはケーブル露出だと特に引っかかりやすく危ないので、積極的にコーナー役物をつける意義があります。実際に買う時は色・サイズに気をつけてください。
コンビネーション・フレキモール
小さな段差処理も同様の意義があり、コンビネーション や フレキモール で対応できます。要するにケーブルの露出する凸部はカバーすると美観だけでなく実利があります。実際に買う時は色・サイズに気をつけてください。
ソフトモール
ソフトモール は文字通り柔らかい素材でできたモールで、知られざるマニアなパーツです。側面全部にスリットが入っており、任意の場所でケーブルを取り出せます。机の上などで多数のUSBケーブルヘッドを出したりしまったりしたい時や、オーディオケーブルで共振を防ぎたい時に役立ちます。色・サイズの選択肢はほとんどありません。
自由に配線しよう
記事の方法を用いれば至極簡単にモールを設置・撤去できるようになりますが、最も良い正解はあくまで通線距離を短くすることです。その上で、必要最小限の範囲をモールで整線すれば、コストと美観を楽に両立できるでしょう。
あなたの素敵な家電レイアウトに、快適な暮らしに、当サイトの他の電工DIY記事と共にお役立てください。
最初から記事の穴あきモールを用意できる場合、下記のピンバイスは不要です。
トリプルピンは単品売よりも下記のフックセットが最も単価が安くなります。
天井落下防止などでトリプルピンを用いたい場合、モールは下記2号サイズ以上が必要になります。注意してください。
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